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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens
信長はひと眼見て、妹のこころがすぐ分った。そして、妹の安全に満足するとともに、兄の大愛を解さない愚痴な女ごころが、抑えようもない不満となって、何か、面倒くさい気もちすらジリジリ起って来たのである。
「藤吉郎」
「はいッ」
「抛っておけ。要らざることをいわんでもよい」
信長は、つと床几を立った。そして一方の陣幕を払って、
「……小谷も墜ちたな」
と、火の手をながめた。城を焼く火も、そこの喊声も、下火になって、峰や谷には、残月のひかり白く、夜の明けるのを待っていた。
ところへ、一手の将と部下が、勝鬨をつつみながら駈け登って来た。そして信長のまえに、浅井長政以下の首を披露した。
お市の方は、身もだえして泣き声あげた。母にとりすがって、子たちも泣き出した。すると信長は大喝を発して、
「うるさいッ。幼い者たちを抱いて、あっちへ行け。勝家」
「はッ」
「そちにあずける。お市も、幼い者たちも。……はやく眼に見えぬところへ連れてゆけ」
彼は、なんの矛盾も感じることなく、そう大声でいって、そして次に藤吉郎を呼びたて、
「浅井が城のあとは、そちに与える。あとの始末、施政、何かと心して守れよ」