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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,320 characters · 398 screens

Aozora Bunko

「所詮、急には陥ちますまい……。いかなる犠牲も惜しまずと申すなればべつですが」

寄手の一将、河尻肥前守は、中将信忠のまえに出て、余りな力攻めの無理と、過大な犠牲をここで払うことの非を説いた。

「ちと、討死負傷が多すぎたな」

信忠も、反省しているのである。肥前守は舌を鳴らしていった。

「しかもまだ、あの通り、城は、頑然たるものです」

「策はないか。何か、良策は」

「思うに、城兵の強味は、まだ新府には勝頼ありと、信じているからでしょう。――ここを一まずおいて、先に甲府、韮崎を攻むるのも一策ですが、そうするには全体的な作戦がえを要します。……もっともよいのは、新府の落去、勝頼の死を、城方へ信じさせるにありますが」

信忠は、うなずいた。

三月一日の朝だった。寄手から射込んだ二回目の矢文が城内に落ちていた。

「児戯にひとしい偽文、攻めあぐねた寄手の顔を見るような」

仁科五郎信盛はそれを読んで笑った。

矢文には、こう書いてある。

去ヌル二十八日、甲館落去、勝頼殿ニハ生害アリ。一門ノ面々ニモ或ハ殉ジ或ハ降人トナリ、甲州中府スデニ定マル。

片々一地方ノ一城ニ過ザル当城ニ於テ、武門申シ立テアルモ既ニ意義ナカルベシ。