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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 176,911 characters · 353 screens
――それより二日前。
四月六日の、夕刻である。
篠木村の百姓が二人、西軍の眼をさけながら、畑を這い、木かげから木かげを走り、
「お訴えな申しまする。どえらいことなござりますで」
と、小牧山の本営へ、駈けこんで来た。
井伊直政が、聞きとり、一大事と、すぐ家康の将座たる屯営の深くまで、二人を引いてきた。
家康は、いまし方、幕のうちで、信雄とはなしこんでいたが、信雄が自陣へ帰ったあと、きょうもバチバチ遠くでする銃声を、そら耳に聞きながら、よろい櫃の上の、論語をとって、黙読していた。
秀吉より六ツ年下の、ことし四十三歳という男ざかりの武将。こんな、やわらかそうな肥肉と色の小白い皮膚をもった好人物が、胸に百計を蔵し、ひとみに大兵を収めて、戦争などするのかと、疑われる温和に見える。
「たれじゃ。なに、……直政か。はいれ、はいれ」
論語をとじて、家康は、ずしりと床几を向けかえた。
二人の百姓は、篠木村三十六人の代表だといった。そして、今夕、秀吉の軍隊が、犬山から間道を縫って、おびただしく、三河方面へ南下したので、すわ大変と、お知らせに駈けつけて来たという。
「よく告げに来た」