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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
そこを、城壁の上からも、城門の上からも、一斉に狙撃を浴びせかけられた。
これは城方の老巧が、出撃の味方を滞りなく収容する奇策だったこというまでもない。瞬時にして、城門の鉄扉はかたく閉められていた。
そして、次には、それらの者が城壁の上に現われ、
「寄らば、これぞ」
と、攀じ登ろうとする寄手の頭上へ、火矢乱石を浴びせかけた。
その中に、城を離れて、動かない一軍団があった。敵とも味方とも分たぬ位置に黒々と見えるのである。
山野は暗紫色に暮れかけ、落日の射るところだけが、草も地も赤かった。
秀吉は、山上の床几場から、ふと、不審な一軍が野中にかたまり合ったまま、さっきからじっと動かずにあるのを認めて、
「はて」
と、小手を眉に翳し、
「あれや、誰の組だ?」
と左右へたずねた。
小姓の中の石田佐吉が、きぱと答えた。
「お味方の勢ではございませぬ」
「なに。味方でない」
驚いたらしい。
秀吉はさらに凝視していた。
乱軍の果て、敵は悉く城中へ引きあげ、味方はそれに尾いて皆、城壁の真下へなだれ寄っていた際なので、今頃なお敵の一軍が、この本陣地の近くに、じっと、居残っていようとは思いもしていなかったのである。