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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
驕兵
驕兵
同日の朝である。
琵琶湖の湖心を水鳥の群れのように北上して来る六、七隻の兵船があった。
船楼をつつむ軍幕には、杜若の大紋がはためき、武者囲いの蔭には、銃身や槍の穂先が林立していた。
「や。……あの煙は?」
丹羽五郎左衛門長秀は、船楼に立っていたが、ふと湖北に連なる一山から立ち昇る黒煙に、思わず声を大にして、左右へ訊ねた。
「――大岩辺か、賤ヶ嶽か」
「賤ヶ嶽かと相見えます」
坂井与右衛門、江口三郎右などの幕僚が答えた。
実際、この辺から望むと、山また山の重畳なので、大岩山の火の手も、てっきり賤ヶ嶽と見られぬでもない。
「はて。解せぬが」
長秀は、眉をひそめて、なお凝視しつづけていた。
解せぬ――と思ったのは、余りにも、彼の予感が中り過ぎていた驚きであった。
この日の二十日未明、長秀は、海津に駐めてある一子鍋丸を将とする軍隊から、早馬をもって、
(昨夜来、柴田、佐久間などの営中、何となく騒然、不審に候う)
との通報をうけた。そのとき彼の六感はすぐ“敵の奇襲”を直感した。なぜならば、十七日以来、秀吉が大垣へ発して、岐阜へ作戦中のことを知っていた彼には、敵がこれを偵知すれば、時を移さず、虚を撃って来ることは――必然的に察し得るところだったからである。