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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
「貴公たちは、すぐ手勢を伴って、池ノ原まで駈け降り、あの大松の畔で待て。それがしは、一書を認め、長浜へ使いをやって、後より直ちに駈けつける」
「長浜へ、何の使いに」
「はて、長浜の城には、この方の老母や妻子どもが、まだ置いてあるのじゃよ。身ひとつは、如何ようにも、ここの陣を脱しようが、老母どもは、時を移すと、必然、人質に捕われよう」
「あ。――それは遅い。間に合うかどうか」
「何とあろうが、置き捨ててはゆかぬ。藤八郎、そこの硯をかしてくれい」
将監は早や懐紙に筆を走らせ始めた。ところへ、部下の報じるものがあった。昨夜来、二番木戸の士、野村勝次郎がどこにも姿を見せぬというのである。将監は、筆を投じて、罵った。
「さては、彼奴よな。日頃からの薄野呂、何がと、油断していたのが、誤りじゃった。おのれ、今にみよ」
呪咀の眼に似ていた。妻へ宛てた文の目を封じる手さえわなわなさせ、
「野上を呼べ。逸平太を呼べ」
と、声にも疳気を乗せて云った。すぐ逸平太が見えると、
「早馬で長浜へ急ぎ、儂の老母と妻子に会って、貨財などには目もくれず、ただ身をのみ船へ移して、湖を漕ぎ渡り、柴田殿の陣所へと落してくれい。