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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
柴田の麾下でその人を誰かとなせば、玄蕃允盛政のほかにあろうとは思われぬ」
瀬兵衛清秀は、よく観た。
そう感じると、ふるえが、身のうちを走った。
“強敵!”
と、否みがたく、思われてくる――。が、その圧倒感にたいし、べつな力は、肚の底から沸き立って、
(狗鼠っ。ござんなれ)
とも、反撥しているのだった。
ふるえは、そう二つの、まったく相反したものが、意識を通さずに起した瞬間の衝動だったといえよう。
「出合えやっ。おうういっ――」
瀬兵衛は、大槍を立てて、寝小屋のすぐ前の、小高い盛土の上から呶鳴った。
銃声が旺んである。
ふもとの方にもするが、案外近いところの、山の中腹にあたる西南の樹木のうちでも聞える。
「間道からも来たな」
霧がこめているため、視界のうちに、敵軍の旗幟を認め得ないのが、却って、焦躁を駆らしめる。
「おオオいっ――」
また、呼ばわった。……声は、山ふところへ谺した。
ここを守る中川隊千人は、まさしくもう眼前の襲変に眼をさましていた。全山、あわただしい物音がこたえている。
とはいえ、不意を喰っていたことは間違いなかった。
ここは、柴田軍の敵陣地を隔つこと余りに遠い後方になる。