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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
「なんの、百姓の母じゃがの……」と。
――庭面は暗くなってゆく。残雪だけが暮れ残る。小島のように飛々に白い。
老母と寧子とは、雪と土とを根気よく掻き掘じっていた。求める蕗のとうの一ツでもと、祈りに似る気持で捜していた。
「寧子よ。ないのう」
「いまに……ありましょう」
「まだ早過ぎるのであろ。もうすこし春もさきにならねば」
「けれど、なければないほど、それは貴うございますから」
「そなたもそれを知るか」
老母の影は、ふと腰を撫でていた。そして、わが影に添う影を顧みていった。
「のう。――たとえ海ほど山ほどの馳走を盛ろうと、もしそれが、心の副わぬものであったら、何のことはない、人は物に、たばかられているようなものに過ぎない」
「わが良人のお嫌いも、心の副わぬ、物だけの、物脅しでございました」
「さればよ。また、いつものむかし語りじゃが、わしもあの子も、尾張中村にいた頃は、或る夜は、一握りの稗だに無うて、ただの湯に味噌を落して飢えをしのぎ、寒夜をわなわな抱きおうて、母子して過ごしたこともある。――極道なあの子の義理の父親が、幾日も家をのぞかぬため、あわれ物乞いにもなりかねて、人様には人なみに喰べた顔を装いながら、飯つぶはおろか、塩気を溶いた湯のほかは、あの子の腹に糧らしい糧の入っていない日が、ああ、それはもう、幾日幾日もあっ