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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
お坊さんは、壇の上の独鈷をとって押頂き、長い線香を一本たて、捻香をねんじ、五種の抹香を長い柄のついた、真ちゅうの香炉にくやらす。そして徐ろに、衣の袖を掻きあわせ、瞑目合掌の後、しずかに水晶の数珠をすりあげ、呟くようにひくく、
ぢん未来さい――
帰依仏
帰依法経――
とかなんとか、涼しい、低くよく通る声で、だんだんに皆をひっぱってゆく。
祖母は、有難い御僧に、褌の布施をする時は、高僧から下足のおじいさんにまで、おなじように二締ずつやった。祖母は別段、和讃歌もお経も覚えようとしなかった。松さんがその事を帰りに訊いたら、
「空念仏だ。」
といった。では、なぜ毎晩参詣なさいますといったら、こう答えた。
「老人は家もすこしはあけてやるものだよ。」
門前の汁粉屋は、人の帰り足をきくと、毎晩かかさず立寄る祖母と、その仲間のために、おしるこを熱くし、おぞう煮もつくっておいた。もんじやきやのお婆さん、ほおずきやのおかみさん下足のおじいさんといった仲間が、そのほかにも三、四人はきっとくる。そして車夫の松さんと、迎えにくる女中と、あんぽんたんと、それだけが、あまり上等でないおしるこを振舞ってもらう。