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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
中年になったお嫁さんは、いつまでも姑が意地わるく生きていると悪口しあうのを、番僧たちはうまく口を合せていた。そんな時、祖母は口を決してださなかった。傍のものが、あんぽんたんの顔をみいみい、円曲に、母のことに話をむけてゆくと、
「心の鬼の角をおりに来て、ざんげなさるのはよいが、後生がようござりますまい。家の嫁は孝行で、孝行であんなよいものはござりませぬ。」
とやるので、合手は苦い顔をしてだまってしまう。私はそこにも厭きて、錫の大壺に酌みいれてあるお水をもらって、飲んだり、眼につけていたりする人を眺めていた。
やがて和讃がはじまる。叩鉦の音が揃って、声自慢の男女が集ると、
有転輪廻の車より、
三毒五慾の糸をだし
生死のかせわのひまいらぬ
さあてもとうとき、おんあぼきゃ、
べいろしゃの、なかもふだらに、はんどく、
じんばら、はらはりたや、うん――
じんばら、はらはりたや、うんが面白くて、いい気になって高音にうたった。
そのうちに、香染の衣を着た、青白い顔の、人気のあった坊さんが静々と奥院の方から仄にゆらぎだして来て、衆生には背中を見せ、本尊菩薩に跪座立礼三拝して、説経壇の上に登ると、先刻嫁を罵り、姑をこきおろした女たちが、殊勝らしく、なんまいだなんまいだと数珠を繰っておがむ。