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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
Read 明治劇談 ランプの下にて (めいじげきだん ランプのもとにて) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 167,283 characters · 329 screens
市川団十郎
こういう予備知識があるのと、それが舞台の上でどんな事になるのかという一種の好奇心とで、わたしは頗る緊張した気分で、この中幕の舞台と向かい合った。
やがて義経が揚幕からあらわれた。俳優は今の羽左衛門の父の家橘である。つづいて四天王が出て来て花道に立ちならぶ間、義経らはうしろ向きになる。わたしたちは西の桟敷に陣取っているのであるから、ここで義経らとまさしく眼を見合わせることになった。わたしは生まれてから初めて俳優の舞台顔というものをはっきり見たのである。尤も他の四天王などには注意しないで、上品で美しい義経ばかりを一心にながめていた。つづいて団十郎の弁慶があらわれると、観客は盛んに成田屋を叫んでいたが、わたしは赤松満祐の坊主に悩まされた苦い経験があるので、この方にはあまり注意の眼を向けなかった。わたしは義経の家橘をむやみに好い役者だと思った。渥美五郎の御注進でわたしを喜ばせた左団次の富樫も、ここではあまりわたしをよろこばせてくれなかった。“判官おん手を取りたまい”ぐらいの予備知識では、やはりこの芝居も判らないことを発見して、わたしはまた失望した。
市川団十郎