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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(六)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(六) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 196,831 characters · 396 screens
今じゃあ川向うの一つ目に囲われて気楽に暮らしているようです」
「お俊に薄あばたは無かったかね」
「あの人は土地でも容貌好しの方で、あばたなんぞはありませんよ」と、徳次は打ち消すように答えた。
松吉はふたたび失望したように半七の顔を見た。
四
「親分、どうしますね」と、三州屋を出ると松吉は訊いた。きょうももう八ツ(午後二時)過ぎで、寒い風が又吹き出して来た。
「強情なようだが、おれはまだ思い切れねえ」と、半七は考えながら云った。「殺されたのはお俊で、殺したのは万力だ」
「碁盤はお俊の家にあったのでしょうか」
「まあ、そうだろうね。伊勢屋は旧い質屋だから、流れ物か何かで、好い品を持っていて、それをお俊の家へ持ち込んでいたのだろう。寒いのに御苦労だが、これから六間堀へ行って、伊勢屋の様子を探って来てくれ」
「ようがす」
橋の上で松吉に別れて、半七はひとまず神田の家へ帰った。いつの世でも探索に従事する者は皆そうであるが、情況証拠と物的証拠のほかに自分の判断力を働かせなければならない。茶の間の長火鉢の前に坐って、半七はきょうの獲物を胸のうちに列べてみた。あばたの有無などに拘泥するのは素人である。