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ぶどうむもん

武道無門

山本 周五郎

Read 武道無門 (ぶどうむもん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,130 characters · 24 screens

Aozora Bunko

勘兵衛はぎろっと鋭く睨みつけた。

「やるか、……覚悟はいいな」

小弥太は答えずに中段に構えた。勘兵衛は馬鹿にしたような鼻笑いをすると、大剣を抜いてそのまま大上段に取った。此処までは極くありきたりな順序だった。ただ勘兵衛が、本当に相手を斬る気でいるかどうか疑問なだけであった。ところが、それからなんとも奇妙な事が始った。

「いいか、ゆくぞ!」

勘兵衛がそう叫んで一歩出たとき、小弥太の躯がひょいと後へ二間ほど退った。刀はちゃんと中段につけている。……勘兵衛は再び一歩出た。すると小弥太は同じように二間ほど跳び退った。然し、依然として中段の剣は動かない。

「なんでそう退るんだ」勘兵衛が苛立たしそうに叫んだ、「思い切って掛れ、斬って来るんだ、そう後へ行くばかりじゃ勝負は出来ん、斬って来い」

「こちは、これでいいのです、……さあ来い」

小弥太は中段の剣をゆらゆらと上下に動かした。本人は必死なのだが、まるでおひゃらかしているように見える。「うぬ、動くな!」叫びながら勘兵衛がとび込んだ、よっぽど癇癪が起ったというようである。

小弥太はぱっと逃げた。追う者と追われる者と、二十尺ほどの間隔が、弦を張ったように、縮みも伸びもせず、草を蹴立て丘を越えて、原の中央どころまで疾走して行った。