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しけんといきなわ
死剣と生縄
江見 水蔭
Read 死剣と生縄 (しけんといきなわ) by 江見 水蔭 (えみすいいん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,104 characters · 31 screens
九
もう夜に入って宵月が出て居った。
「皆此身の不覚からだ。此分では江戸へ帰ったとて、よしや師が健在でも、面目無さに顔が合されぬ。思案を之れは仕替えねば相成らぬで、さあ如何か小虎。お前は拙者に構わず、先へ行きやれ」
「そんな事が出来ますものか」
小虎の声は真剣で有った。
「失礼ながら私は、腹巻の中に、少しは貯えが御座います。布川の町まで行けば、古着屋も御座りましょう。夜を幸い、さあ一息」
竜次郎の手を引いて、堀割端を行こうとした。
「まあ、お待ちよ」
蘆の間に女の声がした。それは生縄のお鉄なので有った。
九
「着物を取上げたのは私です。腰の物から何から残らず私が隠したのよ」
お鉄は竜次郎と小虎とを手荒に引放して、其中間に立って怒吼り付けた。
小虎は吃驚して顫え出した。竜次郎はお鉄と知れては、口を利く事が出来なかった。蝦蟇に見込まれた蚊も同然で有った。
「這んな事が有るだろうと思って、お前さんが身支度をしている間に乾漢を走らして道筋々々へ、先廻りして、身内の者に網を張らして置いたのよ。然うして後から私も化け込んで、見え隠れに附けているとも知らず、此女とお前さんは道連れに成って仲好くして、縺れぬばかりに田圃路を歩きなすった。