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えどのかじゅつ

江戸の火術

野村 胡堂

Read 江戸の火術 (えどのかじゅつ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,929 characters · 36 screens

Aozora Bunko

二人の昼鳶

二人の昼鳶

「あッ、泥棒ッ」

井上半十郎正景は、押っ取刀で飛出しました。

初秋の浜名湖を渡って、舞坂の宿外れ、とある茶店で中食を認め、勘定をする積りで取出した紙入を、衝立の蔭から出た長い手が、いきなりさらって表口へ飛出したのです。

が、事件はそれだけではありません、その昼鳶を追っかけて、思わず敷居を跨いだ半十郎、何がなし重大な不安を感じて、フト後ろを振り返って驚きました。

今まで神妙に弁当を使って居た町人風の第二の男が、半十郎が席へ置いた、振り分けの荷物を引っ抱えて、これは裏口の方へ逃げ出したではありませんか。

「あッ」

半十郎、紙入をさらった第一の男を断念して、振り分け荷をさらった、第二の男に必死と追いすがりました。紙入の中の金は、多寡が江戸までの路用、――今の半十郎には大金でも、僅に十三両二分しか入って居りませんが、振り分けの荷の中には、身にも世にも、命にも、面目にも替え難き、井上流砲術の秘巻が入って居たのです。

「己れッ、待たぬかッ」

追う武士と、追わるる賊と、七月の明るい陽を浴びて、田も、畑も、藪も、林も、真一文字に突き切りました。泥棒の足の早さも抜群ですが、二十七歳の若さを、忿怒と驚愕に燃えさかる、井上半十郎の意気込の凄まじさも一と通りではありません。