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えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
Read 江戸の火術 (えどのかじゅつ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,929 characters · 36 screens
女を追う怪しの心
「江戸の方へいらっしゃるかと思いましたら――左へ折れて、二俣街道へ入った様子でございます」幸い、好奇な下女が、旅の女の変った様子に、門口まで見送って、暫らく行手を見定めていたのでしょう。
「有難い、――その二俣までは何里だ」
「五六里もあるでしょうか」
「その先は?」
「秋葉様への近道になります、その先は信州の飯田で」
井上半十郎はそれ以上は聴いて居りませんでした。一脈の不思議な糸に操つられるように、朝の二俣道を、北へ北へひた向きに駆けるのです。
女を追う怪しの心
父井上外記が、江州鍛冶の名家に生れ、一代の研鑽を傾け尽して編んだ伝書に、父に劣らぬ天才半十郎が、五年間、心血を注ぎ尽して、工夫改良を書き込んだ「井上流砲術秘巻」は、命よりも大事なことに何んの不思議もありません。二た月後に迫った晴れの御前試合に、首尾よく五貫目玉五十丁撃に成功すれば、井上家は元の一千石に取立てられ、次第によっては、幕府の大筒を預って、御持筒頭の栄位を贏ち獲ないものとも限りません。横死した父の怨を晴らし、一度取潰された井上家を起して、立身の階段に足を踏み掛けようという、孝道第一の首途に、企みに企まれた罠に陥ちて「秘巻」