Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
Read 江戸の火術 (えどのかじゅつ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,929 characters · 36 screens
「えッ、邪魔だッ」
ドンと一つ突飛ばして、大輪の牡丹の如く崩折るる妹を尻目に、火縄はサッと動いて、大筒の口火に点じました。
――ダ――ン――
山の大気を揺がす轟音、煙の末を遥かに見やると、間もなく谷を隔てた向う峰の的のあたり、秋草の上にヒラヒラとなびくのは、首尾よく的の黒星を撃ち貫いた合図の赤い旗です。
「おッ、当った、五貫目玉は、首尾よく五十丁先の的を撃ち貫いたぞッ」
踊り上って喜ぶ喜三郎、繁代はそれに目もくれず、
「井上様、ご無事で――」
大筒に這い寄って、尾栓に括られたまま、何んの怪我も無かった井上半十郎に縋り付きます。
「有難い、大筒は無事だ」
自分の身体の危なかったことよりも、井上流大筒の無事を喜ぶ半十郎の顔には、縛られ乍らも歓喜の色が漲るのでした。
「繁代、退けッ、大筒が無事と解れば、井上半十郎にもう用事は無い」
稲富喜三郎左に妹を押し退けて、右手に一刀ギラリと秋の陽を受けます。
「あッ、兄上、それはあんまり」
「この口は塞がなければならぬ、退かぬかッ」
観念の眼を閉じた井上半十郎の首筋へ、喜三郎の兇刃は、幾度も幾度も臨むのです。
「兄上ッ」
争い続ける繁代の力が、何時まで続くことでしょう。