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えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
Read 江戸の火術 (えどのかじゅつ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,929 characters · 36 screens
縛られ乍らも、大筒の蔭になっていた為に、気を喪っては居りますが、これは反って生命が無事です。
大急ぎで掬んで来た水、ほんの少しばかり含ませて、
「井上様」
呼びかけると、漸く眼を開きます。
「お、繁代殿」
何時の間にやら解かれた縄、半十郎は夢心地で四方を見廻しました。
「兄は、石に打たれて死にました。井上様」
「えッ」
振り返って見ると、一塊の血泥になった稲富喜三郎の死骸、井上半十郎は思わず息を呑みました。
「お許し下さいまし、あれは、私の本意ではございませんでした――それからもう一つのお願いは、兄の謀反の企てを、このままお忘れ下さいますように」
「――――」
「井上様さらばでございます、私は、今でも――」
ハッと思う間に、落ち散る兄の刀を拾い上げた繁代、いきなり自分の喉笛へ、それを持って行ったのです。
「あッ、待った繁代殿」
「――――」
「死んではならぬ。――皆んな過ぎ去ったことだ、――怨も、恥も、謀反も、何も、彼も――」
半十郎は疲れ果てた身体を起して、繁代の手から、刀を奪い取るのが精一杯でした。
半刻の後、二人は追われるように山を降りました。的へ行った、兄の仲間が帰って来る前に、兎にも角にも姿を隠さなければならなかったのです。