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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens
「卑怯者、逃げるなッ」
激流の音をもひそめさせるような、金吾が声のあらん限りに、
「なにッ?」
と、振顧った日本左衛門が、みなぎる冷嘲を編笠のうちに、
「逃げるとは、なんの寝言だ」
「では、なぜ待たぬ!」
「待つ弱みはない」
「卑怯だ。逃げ口上!」
「だまれ。ならば、こッちへ渡って来るか」
「ウウム」と、金吾はいいづまりましたが、
「この上流に行けば、石を伝って、自由に越えられる所がある。そこまで歩け」
「オオ、上流の方なら、どうせこッちも足を向けてゆく先、そこまで行ってやってもいいが、しかし……金吾、あの時のままの腕では、おれに刃を立てるのも覚束ねえこと。返り討ちは合点か」
「だまれ」
金吾はいよいよ烈火になって、
「その広言は後で申せ」と、流れの上へ向って大股に歩み出します。
対岸の日本左衛門も金右衛門と共に、岩を避けて進みながら、
「よし、それ程死神につかれているなら、望みにまかせて討ってやろう。……だが金吾」
「多言は無用、あとのことばはこの流れを越えた上で聞こう」
「急くな、まあ聞け、――一体汝はこの日本左衛門に、何の怨みをもってそう食ッてかかるのだ」
「盗人の白々しさ。