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せんこうてい「ハビヒツブルグ」
潜航艇「鷹の城」
小栗 虫太郎
Read 潜航艇「鷹の城」 (せんこうてい「ハビヒツブルグ」) by 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,395 characters · 263 screens
「それが、今日耳にしたところでは、シュテッヘという、姿の見えない薄気味悪い男だそうで……。それから、しばらく居眠ったかと思うと、いまその男の行った方角から、今度は普通の足取りで、コトコト戻って来るのを聴きましたが。……それも現の間で、やがて扉が開いて誰やら入って来たのも、暗黒の中で、それと見定めることは出来ませんでした。しかしその時、時計が五時を打って、それだけは、妙に明瞭と覚えていますが……ああ、どうか今夜だけは、貴方がたといっしょに過させていただけませんか……」
そうして、盲人の訊問は終ったが、岬の夜はだんだんと更けていって、おりおり思い出したように雨の滴が落ちてくる。
が、その時からシュテッヘは、すでに浮説中の人物ではなくなってしまった。あの黒々とした姿を、「鷹の城」の中に現わした以上、彼の生存は、もはや否定し得べくもなかったのであろう。
法水は莨を口から離して、静かに噛むような調子で云った。
「事によると、思い過ごしかもしれないがね。どうやら僕には、毒殺者のもう一人が、ヴィデではないかと思われるのだよ。いまもあの男は、艇内に秘密の扉がある――などとほざいたんだがすぐに彼自身で、それを嘘だと告白しているのだ」