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せんこうてい「ハビヒツブルグ」
潜航艇「鷹の城」
小栗 虫太郎
Read 潜航艇「鷹の城」 (せんこうてい「ハビヒツブルグ」) by 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,395 characters · 263 screens
そして、扉が開かれると、そこに漲っている五彩の陽炎からは眩まんばかりの感覚をうけ、すでに彼には現場などという意識がなかった。
そのせいか、眼前に横たわっている八住の死体を見ても、色電燈で照し出された惨虐人形芝居の舞台としか思われず、わけてもその染められた髪には、老女形の口紅とでも云いたい感じがして、この多彩な場面をいっそうドギついたものに見せていた。
ところがその時、死体とは反対の側に、一人の盲人が佇んでいるのに気がついた。
それは、詩人の犬射復六だったが、そのおり屍体に何を認めたのか、法水は振り向きざま犬射に訊ねた。
と云うのは、なんともいえぬ薄気味悪い事だが、すでに死後十時間近く経過していて、傷口は厚い血栓で覆われているにもかかわらず、現在そこからは、ドス黒く死んだ血が滾々と流れ出ているのである。
その瞬間、この室の空気は、寒々としたものになってしまった。
犬射は美しい髪を揺すり上げて、割合平然と答えた。
「なに、私なら、今しがたここへ来たばかりなんですよ。艇員の方に手を引かれて――さあ五分も経ちましたかな。
それに、用というのが、実は向うの室にありまして、御承知のとおり、乗り込むとすぐこの騒ぎだったものですから、てんで艇長の遺品には、手を触れる暇さえなかったのです。