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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Read 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) by 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 71,989 characters · 144 screens
(一)の十
条件が違っても藝術の目的は一つな訳だ。文学だけがそんな窮屈な、そんな卑しい職分に甘んじる必要はない。―――己はとうとう、斯う云う意見に到達した。己が今迄、自分の独断で極めて居た藝術観は、音楽を知るようになってから、始めてほんとうに誤りのない事を発見した。己が宝商会の蓄音器に負うところも、甚だ多いと云わなければならない。
調子に乗って大分勝手な熱を吹いた。小僧にしては少し云い草がえら過ぎるから、多分何かの受け売りだろうと、疑う読者があるかも知れないが、以上は全く正真正銘の己の直覚から出た議論である。我が輩がいかに早熟な、いかに鋭利な頭脳を所有して居るかは此れで大概合点が行くだろう。
(一)の十
己がいろいろの文学や哲学の書物を読むようになったのは、己の藝術観が確定してから後の事で、つい近頃の話なのだが、今になって考えて見ると、あの時分の自然主義者の文学論は、いよ/\ますます馬鹿々々しいような気がしてならない。
此の間、夜店の古本屋を冷やかしたら、英訳のモオパッサンの小説が二三冊目についたから、早速買って来て、目下己は熱心に耽読して居る。モオパッサンと云えば、日本の自然主義者が自分たちの本家のように云い囃して居る文豪だから、いくらか彼等の作品に似て居るのかと思ったら、読んで見ると大変な相違である。