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てりはきょうげん
照葉狂言
泉 鏡花
Read 照葉狂言 (てりはきょうげん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 49,730 characters · 100 screens
この境内とその庭とを、広岡の継母は一重の木槿垣をもて隔てたり。朝霧淡くひとつひとつに露もちて、薄紫に蘂青く、純白の、蘂赤く、あわれに咲重なる木槿の花をば、継母は粥に交ぜて食するなり。こは長寿する薬ぞとよ。
梨の核を絞りし汁も、木槿の花を煮こみし粥も、汝が口ならば旨かるべし。姉上にはいかならむ。その姉上と、大方はわれここに来て、この垣をへだてて見えぬ。表より行かむは、継母のよき顔せざればなり。
時は日ごとに定まらねど、垣根に彳めば姉上の直ちに見えたまう。垂籠めていたまうその居間とは、樹々の梢ありて遮れど、それと心着きてや必ず庭に来たまうは、虫の知らするなるべし。一時は先立ちて園生をそぞろあるきしたまうことあり。さる折には、われ家を出づる時、心の急がざることあらざりき。
行きて差覗けば、悄れて樹の間に立ちて、首をさげ、肩を垂れ、襟深く頤を埋めて力なげに彳みたまう。病気にやと胸まず轟くに、やがて目をあげて此方を見たまう時、莞爾として微笑みたまえば、病にはあらじと見ゆ。かかることしばしばあり。
独居たまう時はいつもしかなりけむ。われには笑顔見せたまわざること絶えてなかりしが、わがために慰めらるるや、さらば勉て慰めむとて行く。