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てりはきょうげん

照葉狂言

泉 鏡花

Read 照葉狂言 (てりはきょうげん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 49,730 characters · 100 screens

Aozora Bunko

狂言

一

人知れずこそ、また一ツ、ここにも野衾居たりしよ。

狂言

一

見物みな立ちたればわれも立ちぬ。小親が与えし緋鹿子の蒲団の上に、広き桟敷の中に、小さき体一ツまたこそこの時突立ちたれ。さていかにせむ。前なるも、後なるも、左も右も、人波打ちつつどやどやと動揺み出づる、土間桟敷に五三人、ここかしこに出後れしが、頭巾被るあり、毛布纏うあり、下駄の包提げたるあり、仕切の板飛び飛びに越えて行く。木戸の方は一団になりて、数百の人声推合えり。われはただ茫然としてせむ術を知らざりき。

「おい、帰らないか。」

と声を掛け、仕切の板に手を支きて、われを呼びたるは国麿なり。釦三ツばかり見ゆるまで、胸を広く掻広げて、袖をも肱まで捲し上げたる、燃立つごとき紅の襯衣着たり。尻さがりに結べる帯、その色この時は紫にて、

「どうした、一所に帰ろうな。」

「後から。」と低く答えぬ。

国麿は不満の色して、

「だって皆帰るじゃあないか。一人ぼッちで何しに残るんだ。」

「だって、まだ、何だもの。」

となお猶予いぬ。女来て帰れと言わず、座蒲団このままにして、いかで、われ行かるべき。

国麿はものあり顔に、

「可いじゃあないか、一所に帰ったって可いじゃあないか。