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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens

Aozora Bunko

高時だけでなく、その姿はここにいる限りな人々の視線に曝されつつ、おそるおそる、その一歩も重そうに、こなたへ歩いてくるさまだった。

足利高氏の妻の兄。

いわば反逆人の片われ。

と見る衆人の目のトゲが、わけて千寿王の失踪いらいは、彼の頬をも肩の肉をも削りとっていたかのような窶れにみえる。

「…………」

無言のまま、守時は、高時の床几のまえに、ぬかずいた。

高時は、日頃のような口吻で、床几をすすめた。

「赤橋。かけたらどうだ。まずそれへ」

「謹慎の身です。ありがたくは存じますが、いただきかねます」

「遠慮はいらん。わしがゆるすのだ。また、無断出仕の胸もほぼ分っておる。赤橋、出陣のゆるしを求めに参ったのであろ」

「ご明察の通りです。新田の大軍は、はやこれへ近づき、西の海道からも、大塔ノ宮の指令による海道の宮方武士が、新田に呼応して、攻めくだッてまいるよし。なにとぞ、守時に一手の防ぎをお命じ給わりますように」

「望みか」

「さもなくては、この守時、死にきれませぬ。――守時とて北条一族の内、その妹聟に、宗家へ弓を引く反逆の子を出したことです。世間の疑いの目、誹りの声、それはまだ忍ぶとしても、この御存亡の日を、ただよそ目には見ていられません。