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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
しかし、その大仏貞直にしてさえも、
「新田勢のこよいの攻め方は、これまでのようではない。逆軍の義貞も今やあせって、気短に、雌雄をわれと決せんとするものか」
と、当面の猛攻撃が、相手の“まぎれの攻め”とは気づいていなかったふうである。
もし気づいていたならば、「ここよりは」と、まず稲村ヶ崎の突端の防禦と、干潮時の時刻とに、最大な注意を払っていなければならなかった。
もちろん、彼も細心な防禦法は講じていた。
わけて、つい三日前、新田がたの大館宗氏の一勢が、昼の干潮時をうかがって、突如、干潟伝いに、郭内へ斬り込んできた前例もあることなので、そこは海面だからといって、決して安心はしていない。むしろ一そう厳にはしてある。
だが先の大館勢は、これを袋の鼠にして殲滅し、主将の大館宗氏の首をも挙げていたことなので、自然、郭内の兵は驕っていた。あの失敗をみては新田方のどんな命知らずも、ふたたび無謀な危険はおかして来まい。よしややって来ても、海上には北条家の船手が船列をしいて見張っているし、岬の突端から前浜へかけては、幾多の防寨が築かれてもいる。
「来るなら来い。ござんなれ」