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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
「さては、きのうの懸合いだな。人数は」
「いや少々の郎党だけで、べつに隊はひきいておりません」
「なんのこッた。それならさして騒ぐこともないわ。立ち騒いで逆に笑われるな」
義貞は、奥でこれを聞き、座を設けて、努めて平静に、三人が通されて来るのを待っていた。
細川三兄弟のその朝の義貞訪問は、いったい何のためだったのか、窺い知ることもできなかった。
客院では、主客の歓談だけが聞かれて、終始、予想されていたようなけわしい空気はどこにもないのだ。
その上、午ともなると、
「まあ、よかろう」
と、義貞の方からひきとめ、
「これでしばらくお目にもかかれぬのだ。袂を分つと申しては不吉めくが当分はまずお別れ……。陣中何もないが」
と、酒飯を出して、もてなすなどの有様だったし、和氏らが帰るさいには、脇屋義助をよんで、きのう新田方の武士が拉して来た喧嘩相手の若侍の身を、
「何も申さず、水に流して、お返し申せ。……処分は細川どのに委すべきだ」
と諭して、それすらも解き渡して帰したのだった。
しかし、あとは騒然となった。それを不満とする下部の将士の声である。わけて脇屋義助は、昨夕彼らをなだめていただけに、彼らの声に突きあげられる立場にもあったし、また、兄の解せない態度には、いぶかり以上なむかつきをすら覚えて、