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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens

Aozora Bunko

「前祝いだ」

とか、

「首尾を祈る」

とか言いあっているので、妓たちがなんの気なく、いったい何があるのですか、と執拗に訊ねたところ、若公卿の一人が、大塔ノ宮の候人と称する年配の武者と顔見あわせて、

「火祭りじゃよ」

と、笑って答えた。けれどなお妓のひとりが、座興半分に、

「火祭りは鞍馬の行事じゃありませんか。嘘ばッかり」

と、なじったところ、こんどはその若公卿が真顔になって、

「なにも鞍馬とはかぎらん。都の内でも時々には、塵芥焼きをする必要がある。王政の敵を一掃する火と血の祭りだ。夜半すぎ、六波羅の方を見ておれ」

と、これも帰りがけに、言って立ったというのである。

それやこればかりでなく、洛内の市民は、前夜から、

はてな?

と、いぶかられることばかり見聞きされていた。

宇治や鳥羽の川舟が一切止まったとかで、市に着く荷が、その夕は入って来ない。

いつもなら、「このごろ都に流行るもの」で唄われている――

気色めきたる京ざむらひ

黄昏れ時になりぬれば

浮かれて歩く色好み

の、その人通りもまったくなく、柳かげやら空地の小屋に、夕顔みたいな辻君の顔が、どれもこれもお茶挽き姿で手持ちぶさたを喞っている風。