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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
やむなく頼まれた雇われ刺客ではおざらぬ、などとも大言を吐きおりました」
「まるでそれは、つねに聞く、宮の口吻そのままではないか」
「おそらくは、と察しられますものの、宮のみの字も、おくびにさえ出しません」
「それでいい。そして小六の身柄は?」
「即座に放しつかわしました。素直に白状したら解いてやれと、あの場で、殿が這奴へ約束をお与えなされましたことゆえ」
「それもまた、それでよかった。命びろいをしたと、よろこんで立ち去ったろうに」
「ところが、縄を解かれてどこへ帰る? と訊きますと、問うもおろかよ、主人正季どのの許へ帰る、と豪語してはばかりません」
「ふむ」
「そしてなお申すには。――いつかまた、きっと尊氏の命を狙うぞ、目的をとげるまでは、所望してやむまいと、太々しくも言い払い、どこへやら姿をかくし去ってござりまする」
「はははは」
と、尊氏は起ちかけて、
「なかなか健気な者だな」
と、ひとごとのように笑った。――ちょうど彼方の亭では、帝の立座とみえて、公卿たちの群れの間から、供奉の人員へ、御車触れが、しきりに手合図され出していた。
まもなく、紅葉寺を出発――
還幸は、夕に終った。