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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
「わかった」
宮はやっと、得心がいったご容子だった。ひとたび、疑いがはれると、あとはやはり宮中そだちのお人の良さが、それもまた度がすぎるほど、寛容にあらわれてくる。
どうしてこんな六波羅密牒がやすやす手に入ったかなどの、細部のしらべは糺そうともせず、いずれ道誉から訊きとるおつもりでもあるか、
「よく告げて来た」
と、玄蕃の労をいたわって、
「良忠、この者を下屋へさげて、当座のほうびに、酒でもうんと飲ませてやれ」
と、いいつけた。
そして宮は奥へかくれ、宵の灯の下で、さきに訴人から殿ノ法印をへてお手に入った六波羅密牒の内容を、もいちど検討しているふうであった。
それは、六波羅の執事高ノ師直のふでにちがいない。ひどく達筆である。
文意は、鎌倉の直義へあてて、近日中に京都で異変があるむねを予報しているものであった。
異変とは何か。洛内の挙兵だとも、宮将軍の門を攻めてご自決をせまることだとも、文面ではどこにでもいっているものではなかった。けれど文の裏には充分にそれと読まれるものがある。
――かからん上は
関東、奥羽の一ゑん
宮かた武士どもの動揺
わけて陸奥の屯軍
鎮守府将軍(顕家)