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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens

Aozora Bunko

「できないこともありません」

「ならば、これを」

と、帝は四通の結び文を金若へ託された。二通は侍者ふたりへの連絡である。そしてほかの一通は権大納言ノ局へ。もう一つは三位ノ局阿野廉子の手へと、かたく、おいいつけになって、

「たのむぞ」

と、仰っしゃった。

「みかど。……小宰相さまのが、ありませんね」

「彼女には、ことばの上で告げてある。が、いちどもここへ来ていない権大と三位ノ局へは、二十四日の手筈を、書中にしたためてやるほかに手だてはない。抜かるなよ」

どう足手まといであろうとも、脱島には、妃たちもみな連れて逃げるお覚悟のようらしい。わけて阿野廉子は皇后以上にも思っておいでなのだから、たとえお身を賭けても、彼女を島へ置き去りにして行くなどは、忍びえず、としておられた。

自然、きのうも今日も、お心はもうここの配所の外だった。ただ現身だけを朝音暮音の松かぜにおいて、

「あとは天命あるのみ」

と、余す一日を獄簾のうちに、じっと耐えているようなお姿だった。

「みかど。……なんだか今日はすこし変ですよ」

「金若か。何を見たの」

「能登が帰ったかどうかとおもって、町へ探りに行ってみたら、一ト晩のうちに、おッそろしく兵隊がふえています。