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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens
世の何かも知らぬきれいな乙女の頃でおわしたろ。それからのご苦労じゃな。殿も罪な! もし殿とのお知り染めさえなくば、こうも茨の道はなかったろうによ」
「…………」
「が、それも宿世浅からぬ御縁とすれば、ま、生き耐えて、どこまでもお身さまのその真実を、想う男の殿へささげて見せたらどんなものか。そうはせいで、死んでみせてやる! ……これや世間ざらにある女子のすること」
「…………」
「のう、師直めにまかせられい。このほうもいささか苦労人のつもりではある。さいぜんも物蔭で聞いておれば、お身さまには、誰にも話せぬことがあるという。さ……それだわ! 藤どのをこう悩ませているわけも、殿が会わぬというご猜疑も」
「え、殿がなにを?」
彼女は、つき上げられたように胸をおこした。霊女の仮面より白い顔だった。
師直はそのとき見た。彼女のひだりの瞼の、うす青い痣が涙に洗われている。
「いやなに」
師直は笑いにごして。
「殿もくわしくは、ご存知あるまい。よしお耳になされても、何をいうやら知れぬ道誉のこと、お取上げにもなるまいが」
「あの、道誉が何を」
「じつは、師直も聞かされておりまする。