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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
Read 花と龍 (はなとりゅう) by 火野 葦平 (ひのあしへい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 410,131 characters · 824 screens
愛憎
お京のやわらかい腕から、生あたたかい体温が伝わって来て、金五郎は、変な気持になって来た。
遠くで、三味の爪びきの音がしている。
愛憎
四五日来の雨があがると、夏がぶりかえして来たような残暑が、人々をうだらせた。ツクツク法師も戸まどいしたようで、また、森では、油蝉が鳴いた。
マンは、土間に、茣蓙をしいて、ワラジを編んでいた。
台所の七輪にかけた鉄瓶が、シュンシュン、鳴っている。飯台のうえには、ちゃんと夕食の支度がととのえられ、金五郎の好きなイワシを煮た鍋、焼き茄子、豆腐汁、などの横には、一合徳利も置いてある。茶碗も、皿も、箸も、それぞれ、二人前、いつ、夫が帰って来ても、すぐに、一緒に、晩飯が食べられるようになっていた。マンの膝の上に一匹、方々に、五六匹の猫が散在している。
三足目のワラジを編みかかったときには、外は、そろそろ、暗くなっていた。
「今日も、帰らんのか知らん……?」
マンは、黄昏の表を見て、ふっと、ためいきのように、呟いた。
下駄の音が、聞えた。
(帰って来たわ)
心をはずませて、立ちあがると、入口に、永田親方の細君、ヨネがあらわれた。茂次平という、八つになる男の子の手をひいている。