Japanese reading practice

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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

Read 花と龍 (はなとりゅう) by 火野 葦平 (ひのあしへい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 410,131 characters · 824 screens

Aozora Bunko

サクが、マッチを持って来て、火を点じようとした。マンは、提灯を引いた。

「あんたの火は借らん。今夜は月夜じゃけ、足元は明かるいわ」

腹立ちまぎれ、無茶のような捨言葉を残して、妾宅を出た。そして、永田杢次の手を引き、おぼろ月に煙る深夜の街を急いだが、マンは、遠くに、永田家の灯が見え、そこで、忙しく弁当ごしらえに立ち働いている人たちの影が見えて来ると、急に、胸が疼いて来て、涙が、ボロボロと、流れ落いた。

永田が、ぐにゃぐにゃで、幾度もつまずいて倒れるので、マンは、親方を、背に負った。張り子のように、軽い。

また、新しい涙が流れ、

(ええ親方じゃったのに……)

と、二年前、「なんでも屋」の紹介状を持って、永田杢次を頼って来て以来のことが、走馬燈を急廻転させるように、目まぐるしく、マンの脳裡を去来した。

「どこに行っても、これというて、心服の出来る親方は居らんなあ」

門司や、下関にいたころ、金五郎は、口癖に、そう、述懐していた。浜尾市造も、山下松次も、親分として仰ぐに足る人物でないとして、見切りをつけた。その金五郎が、永田組で、二年も腰を落ちつけたのは、畢竟、永田杢次の人柄に惹かれたためである。