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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
Read 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 23,548 characters · 47 screens
それでやむなく、おたねはかよいのできる茶屋奉公の口を捜し、二年このかた勤めて来た。
角三の父は、多助の倒れるまえに死んだ。母は五年まえに病死していたので、彼は一人だけになったが、それをきっかけに住込みをやめ、藪下のうちから「灘紋」へかようことにした。こうして、二人は毎日いちどは会うようになり、「めし屋」をやることについて語りあった。長いあいだ祖父の手伝いをしていたから、めし屋ならおたねも役に立つだろう。
――石にかじりついても、きっとものにしましょうね。
おたねは繰り返しそう云って、自分も乏しい家計の中から、僅かながら金を溜めるように努めて来た。すると今年の八月、いまの家が空いたので、差配に話したうえ、そのあとへ移った。裏通りではあるが、護国寺の参詣道に近く、また周囲には武家屋敷も多い。武家の奉公人などは案外いい客になるから、きっとしょうばいになると思った。同じ長屋に与平という大工と、小助という左官がいた。どちらも酒呑みで、手間取り程度の腕しかなかったが、その二人と相談をしておよその見積りをし、必要な材料を買って造作を直した。
こういう仕事は、手間取り職人などのほうが融通のきくものらしい。