Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
Read 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 23,548 characters · 47 screens
九
松次郎は明らかに不安そうで、そのために却って虚勢を張り、長次のほうへ近よっていった。
「もう少しうしろだな」と長次は松の木と崖とを見比べながら云った、「済みませんがもうちょっとうしろへいって下さい」
松次郎はうしろへさがった。
「もうちょっと」と云って、長次は地面へしゃがみこんだ、「そう、もう少しですね」
松次郎はうしろへ二歩さがった。すると、彼の足がなにかを踏み外し、彼は両手を宙におよがせながら、すぽっと、枯草の中へその姿を消した。
九
濃い黄昏の光の中で起こったその出来事がなにを意味するか、あまりに突然で、登にはちょっとわからなかった。両手を振りながら枯草の中へ姿を消してゆくとき、松次郎は大きな声で叫び、その声が地面の下へ、尾をひきながら落ちてゆくのを、あっけにとられたまま登は聞いた。
「あれがじいさんの云うおくめ殺しなんでさ」と与平が云った、「本当はそんな名めえなんぞありゃあしねえ、ただの古井戸なんで、深さが二丈九尺、水のねえ空井戸なんだが、昨日しらべましてね、毒気のねえこともわかったんだが、ずっと昔ってえだけで、いつのことかわからねえが、おくめってえ女の子がおっこちて死んだことがある、古い人はそいつを知っていて、おくめの井戸と云ってたらしい、石の蓋をして柵を結って、子供たちも決して近よらなかったんだが」