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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,957 characters · 31 screens
咽喉の裂けるようなおこうの叫びが、惣平次には、聞えなかった。かれは、気を失って、ぐったりと円く、土間へ崩れた。
五
水戸様お石場番所の番人の倅で、瓦職の庄太郎というのが、仕事先の、逸見若狭守お屋敷の屋根から、誤って滑り落ちて、飛び石で頭蓋を砕いて死んだ――それはそれとして、その陰に、こんな面妖な話がある。
――と、風のように聞き込んだ八丁堀合点長屋の岡っ引釘抜藤吉が、乾児の勘弁勘次にも葬式彦兵衛にも告げずに、たった一人で、その、本所一つ目の、岬のようになっているお石揚場の一軒家へ出かけて行ったのは、ちょうど、庄太郎の初七日の晩だった。
いかにも、奇体な話だ。
ただ、直接老夫婦の口から、詳しく聴いておきたいと、そう思ってやって来た藤吉だったが、
「御免なさい。あっしは、八丁堀の者ですが――。」
戸を開けるとすぐ、異妖に悲痛な気持ちに打たれて、藤吉は、声を呑んでしまった。
あの晩と同じに、炉に火が燃えて、煙の向うから、別人のように窶れた惣平次が、
「八丁堀のお方が、何しにお見えなすった。」
虚ろな、咎めるような口調だ。
「じつあ、ちょいと、見せてもらいてえ物がありやしてね。