Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,163 characters · 25 screens
二
店先には行列に付いて来た、盛装の人たち。帰りもならず薄暗がりに三々五々、吹き寄せられたように集まって、辻褄の合ぬ囁きを、気ぜわしく取り交し、家の中には、今宵の晴れの儀式に招かれた親類縁者が数十人、これは黙りこくって、右往左往に動いております。
時は六月二十三日、場所は本郷一丁目の大地主、田原屋久兵衛の家。宇田川小町と言われた浪人秋山佐仲の娘お喜美は、こうして花嫁衣裳を碧血に染めたまま、浅ましくも痛々しい姿で聟の家へ担ぎ込まれたのでした。
二
「親分、こいつは江戸開府以来でしょう」
駆け付けた八五郎は、手振り身振りでこの一埒を報告するのです。
「お前に言わせると、守りっ娘が駆落ちしても、鳶が油揚をさらっても江戸開府以来さ」
銭形平次はそんな事を言いながらも、さすがに事件の重大性を見抜いたらしく、女房のお静に晩酌の膳を引かせると、手早く支度に取りかかりました。
「でも、花嫁が駕籠の中で殺されるなんざ江戸開府以来でも古渡りの方じゃありませんか。ね、親分」
「古渡りの江戸開府以来は嬉しいな。さア出かけようぜ」
平次は先に立つように、夜の本郷台へ急ぎました。夏場のことで、表通りの店はまだ開いておりますが、蚊遣煙が淡くこめて、どこからともなく爪弾きの音も聴えてくる戌刻半(九時)過ぎ、江戸の夜の情緒は、山の手ながら妙に艶めきます