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しっぽうのはしら
鏡花短編集
泉 鏡花
Read 鏡花短編集 (しっぽうのはしら) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,632 characters · 32 screens
しくしく下腹の痛む処へ、洪水のあとの乾旱は真にこたえた。鳥打帽の皺びた上へ手拭の頬かむりぐらいでは追着かない、早や十月の声を聞いていたから、護身用の扇子も持たぬ。路傍に藪はあっても、竹を挫き、枝を折るほどの勢もないから、玉江の蘆は名のみ聞く、……湯のような浅沼の蘆を折取って、くるくるとまわしても、何、秋風が吹くものか。
が、一刻も早く東京へ――唯その憧憬に、山も見ず、雲も見ず、無二無三に道を急いで、忘れもしない、村の名の虎杖に着いた時は、杖という字に縋りたい思がした。――近頃は多く板取と書くのを見る。その頃、藁家の軒札には虎杖村と書いてあった。
ふと、軒に乾した煙草の葉と、蕃椒の間に、山駕籠の煤けたのが一挺掛った藁家を見て、朽縁へと掛けた。「小父さんもう歩行けない。見なさる通りの書生坊で、相当、お駄賃もあげられないけれど、中の河内まで何とかして駕籠の都合は出来ないでしょうか。」「さればの。」耳にかけた輪数珠を外すと、木綿小紋のちゃんちゃん子、経肩衣とかいって、紋の着いた袖なしを――外は暑いがもう秋だ――もっくりと着込んで、裏納戸の濡縁に胡坐かいて、横背戸に倒れたまま真紅の花の小さくなった、鳳仙花の叢を視めながら、煙管を横銜えにしていた親仁が、一膝ずるりと摺って出て、「一肩遣っても進じょうがの、対手を一つ