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ゆきぐにのはる

雪国の春

柳田 国男

Read 雪国の春 (ゆきぐにのはる) by 柳田 国男 (やなぎたくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,000 characters · 266 screens

Aozora Bunko

町を作る人

もとの主の手にかえる場合ははなはだ少なかったそうである。回復と名づくべき事業は行われにくかった。智慧のある人は臆病になってしまったという。もとの屋敷を見捨てて高みへ上った者は、それゆえにもうよほど以前から後悔をしている。これに反してつとに経験を忘れ、またはそれよりも食うが大事だと、ずんずん浜辺近く出た者は、漁業にも商売にも大きな便宜を得ている。あるいはまた他処からやってきて、委細構わず勝手な所に住む者もあって、結局村落の形はもとのごとく、人の数も海嘯の前よりはずっと多い。一人一人の不幸を度外におけば、疵はすでにまったく癒えている。

三陸一帯によくいう文明年間の大高潮は、今ではもう完全なる伝説である。峰のばらばら松を指さして、あれが昔の街道跡という類の話が多く、金石文などの遺物は一つもない。明治二十九年の記念塔はこれに反して村ごとにあるが、恨み綿々などと書いた碑文も漢語で、もはやその前に立つ人もない。村の人はただ専念に鰹節を削りまたはスルメを干している。歴史にもやはりイカのなま干、または鰹のなまり節のような階段があるように感じられた。

町を作る人

焼けてはならぬものはもちろんほかには多いが、取り分けて大正年間においては、町などは火事に遭わせたくないと思う。