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ゆきぐにのはる
雪国の春
柳田 国男
Read 雪国の春 (ゆきぐにのはる) by 柳田 国男 (やなぎたくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,000 characters · 266 screens
だから日本の近世の風光にも、なお人間の干渉に多謝すべきものが多かった。たとえば農業は植物の種類を複雑ならしむるところの作業である。緑一様なる内海の島々を切り開いて、水を湛え田を作りれんげ草を蒔き、菜種、麦などを畠に作れば、山の土は顕われて松の間からツツジが紅く、その麦やがて色づく時は、明るい枇杷色が潮に映じて揺曳する。ヒバリやキジが林の外に遊び、海を隔てて船中の人が、その声を聞くような日が多くなる。浜近くに多くの家が群がり住み、歌い笑い燈火を高く掲げなかったら、月なき夜の浜の景色は、今よりもはるかに寂しかったろう。伊予の西岸には新たに山腹を耕して、桑を栽える風が入って来た。すなわち桑の葉の若い緑は、珍しい春色をこの地方にもたらしたのである。
その他舟を繋がんとする岸には垂柳を移し植え、山に新道を開けば路の曲がりには、小家を立て多くは若干の樹を栽える。必ずしも海の入日の前に散り乱るることを期せずとも、自然にそのような情景を催して、旅に倦みたる者をして佇立せしめる。自分などの生まれた国では、花は山に入って尋ねてみるもので、寺か社でなければ庭前にこれを賞する風はなかったが、好事裕福の俗人が名聞のためにでも、閑静の地に家を構え、もしくは人が公園などと称して、高い所を切り平げて赤土にすると、そこにたいていは早く