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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,712 characters · 29 screens
船にしようということになって、長崎屋だけをひとり寮に残し、仁科、日進堂、和泉屋、佐倉屋の四人が三囲から舟に乗り、両国橋の下をくぐって、矢の倉河岸の近くまで来たとき、佐倉屋が、ちょっと、と言って艫へ立った。
艪を漕いでいた佐吉という若い船頭が、
「旦那、おつかまえしましょうか」
と、立ちかかるのへ、
「なアに、大丈夫」
と、こたえて、ゆっくりと小用をたしていたが、やはり疲れていたのか、うねりで船がガクとあおられたはずみに、ヒョロリと足をひょろつかせて、他愛もなくザブンと川の中へ落ちこんでしまった。
一同はおどろいて、思わず、あッ、と声をあげたが、川には小波ひとつなく、それに、水練にかけてはひとに負けない佐倉屋のことだから、間もなく、やア、ひどい目にあった、などと言いながら浮きあがって来るのだろうと思っていると、よほど深く沈んだとみえて、なかなか浮いて来ない。
さすがに、気をもんでいるうちに、佐倉屋はとつぜん躍りだすような勢いで浮きあがって来て、口をパクパクさせながら、
「あッ、あッ」
と、喘いでいる。
ひどく、妙なようすだ。
頭から濡れしずくになって、眥が張りさけんばかりにクヮッと眼をむき、なにか、眼に見えぬ水中の敵とでも争うような恰好で、凄じい水飛沫をあげながら夢中になって両手で水を叩きまわっていたが、それ