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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,468 characters · 25 screens
……そう思うと、あっしはもういても立っても。……どうか、お察しなすってくださいまし」
屋根裏
深川の油堀。
裏川岸にそってズッと油蔵が建ちならんでいる。壁の破れにペンペン草が生え、蔵に寄せて積みあげた油壺や油甕のあいだで蟋蟀が鳴いている。昼でもひと気のない妙に陰気な川岸。
もう暮れかけて、ときどきサーッと時雨れてくる。むこう岸はボーッと雨に煙り、折からいっぱいの上潮で、柳の枝の先がずっぷり水に浸かり、手長蝦だの舟虫がピチャピチャと川面で跳ねる。……ちょうど逢魔ガとき。
油蔵の庇あわいになった薄暗い狭いところを通って行くと、古びた黒板塀に行きあたった。
清五郎は裏木戸の桟に手をかけながら、
「ここから入ります。……母家はお通夜でごった返して離家には誰もいないはずですが、それだと言ったって、だんまりで座敷へ踏みこむわけにもゆきません。屋根の破風の下見をすこしばかり毀しますから、窮屈でもどうかそこからお入りなすってください」
泉水の縁をまわって離家に行きつくと、横手においてあった梯子を起し、身軽にスラスラと昇ってゆく。さすが馴れたもので切妻の破風の下に人がひとり入れるだけの隙間をこしらえ、ふたりを手招きしてからゴソゴソと穴の中へ入って行ってしまった。