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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,604 characters · 28 screens
この、大だわけ」
内実はそうじゃない。
最後までとうとう弱味を見せなかったが、この間の印籠の件では顎十郎がきわどいところで自分の窮境を救い、なにもかも自分の手柄にして、この叔父に花を持たせてくれたのだとさとった。
不得要領な顔をしてニヤニヤ笑ってばかりいるが、あれだけのアヤを逸早く洞察し、あんな沈着な処置をとれる鋭い頭の持主は、見渡すところ自分の組下にはいない。これが血につながる自分の甥だと思うと、ぞくぞくうれしさがこみ上げてくる。
うまく釣り出して、今度の水死人をモノにさせ、庄兵衛組と北奉行所の名をあげよう魂胆なのである。
二人が鎌倉河岸につくと、南組のお先手はまだ来ていない。
死体はまだ水の中に漬けたままにしてあって、二人が河岸っぷちに寄って行くと、非人がグイと水竿で岸へ引寄せる。
年ごろは二十二三。ひどく面やつれのした中高な顔で、額にも頬にも皺が寄り、胸は病気のせいか瘠せて薄くなり、腹はどの水死人にもあるように肥満してはいない。
木蘭色の直綴を着ているが、紅い蹴出しなどをしていないところを見ると、ころび比丘尼ではなく、尼寺にいたものらしく思われる。