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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,028 characters · 30 screens

Aozora Bunko

そこへ、土手のむこうから、

「おウ、藤波さん」

という声。

振りかえって見ると、のっそりと堤のむこうから出て来たのが顎十郎。しゃくるような薄笑いをしながら、二人のほうへ近づいて来て、

「ほほう、やってますな。さすがお顔がひろいだけあって、だいぶさまざまなのをお集めですな。枯木も山の賑わいじゃあないが、非人の餓鬼もこれだけ集まると、ちょっと見ばえがする。なかんずく、右手から二番目にいるのなんざあ、あなたと生写し。いわゆる御落胤とでもいったようなものなんですかな。ほれほれ御覧なさい。血統は争われないもので、三白眼でこっちを睨んでいます」

と、ぬけぬけとひとを小馬鹿にしたことを言っておいて、

「それはそうと、今朝ほどお手紙をさしあげましたが、まだ御落手にはなりませんでしたか」

藤波は、苦りきった顔で、

「おう、誰かぼやぼや言っていると思ったら、仙波さんですか。お手紙はいかにも拝見しましたが、なにやらいっこう通じない文意で、途方にくれたこってした。お手紙の趣きでは、なにか私がたいへんな見当ちがいをしているとのことでしたが、間違いだろうとどうだろうと、あまり人のことに口を出さないほうが、おたがいにやりいいと思うんですがねえ。