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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
Read 魔術師 (まじゅつし) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 139,264 characters · 280 screens
鍵は四部屋とも共通のものであったから、外からドアは開く。なるべく音のせぬ様に鍵を廻すと、彼はソッと寝室の中を覗き込んだ。覗き込むや否や、彼の口から何とも云えぬ恐ろしい悲鳴がほとばしった。
笛の音で、已に目を覚ましていた、外の二人も、二郎の声に驚いて飛び出して来た。
「どうしたんだ。二郎」
「お父さんが、お父さんが、……」
一郎も妙子もドアの前に来て、二郎の指さす所を見た。そこには、父善太郎氏が、イヤ、善太郎氏の死骸が、ベッドを転がり落ちて、倒れていた。
両手は喉の辺をかきむしる格好に、空を掴み、顔は苦悶に歪んで、歯をむき出し、白くなった目は、飛び出すかと見開かれていた。
二目と見られぬ無残な形相だ。併し、それよりも一層恐ろしい一物が、死人の頸に巻きついていた。小豆色の蛇だ。源造の怨霊だ。善太郎氏は恐らく、睡眠中この蛇に頸をしめつけられて、死んだものに相違ない。
死体の上には、例によって、早咲きの桜の花弁が、雪の様に撒きちらしてあった。死体を飾るこの花びら、さい前聞えた横笛の葬送曲、凡てが嘗つての奥村源造のやり口である。
蛇は人々の立騒ぐ物音に驚いたのか、死人の頸を離れ、スルスルと床を這って逃げようとした。