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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
鳴門秘帖
心の地震
心の地震
鬱然とした大樹はあるが、渭山はあまり高くない。山というよりは丘である。
西の丸、本丸、楼台、多門など――徳島城の白い外壁は、その鬱蒼によって、工芸的な荘重と歴史的な錆をのぞませ、東南ひろく紀淡の海をへいげいしていた。
城下をめぐる幾筋もの川は、自然の外濠や内濠のかたちをなし、まず平城としては申し分のない地相、阿波二十五万石の中府としても、決して、他国に遜色のない城廓。
その三層楼のやぐら柱にもたれて、さっきから、四方を俯瞰している人がある。
太守である。阿波守重喜だ。
かれは、そこからかすかにみえる、出来島の一端を見つめた。河にのぞんだ造船場がある。多くの工人、船大工が、しきりに巨船を作っていた。
すぐ、その眼を、徳島城の脚下にうつした。
そこにも、多くの石工が、外廓の石垣を築いていた。搦手の橋梁や、濠を浚う工事にもかかっている。
石垣の修築は、幕府の干渉がやかましいものだが、阿波守は、わずかな河川の修復を口実にして大胆にこの工を起こした。しかもそれは大がかりな城廓の手入れらしい。
のみや槌の響きは、何か新興の力を思わせる。阿波守の胸には、その音が古き幕府に代るものの足音として衝ってくるのだ。