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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
山千禽
どうか、孫兵衛の首は笄をさしたまま、私におつかわし願いとうございます。はい、最前お頼みと申しましたのは右様な次第、皆様、このとおり、両手をついてお願い申しまする。
と、侏儒は話し終って頭を下げた。それと一緒に、ほっと、誰ともなく息をついた。
黙然と、うす目を閉じて、侏儒の語るのを聞いていた弦之丞は、その時、何思ったか、万吉の手からお綱へ渡されていた秘帖をとって、ピリッと、二ツに引き裂いた。
「あっ?」
色をかえた人々の目は、とびつくように、弦之丞の手もとを見あった。
山千禽
「よし、孫兵衛のことは、そちの自由にするがよい」
キッパリといった上に弦之丞は、二つに破った秘帖の一半を、侏儒の手へさずけた。
「これは?」
「これは龍耳老人へおくる弦之丞の寸志じゃ。帰国の上は、何もいわずに、孫兵衛の首級にそえて、お渡しいたしてくれい」
ああ、さてはと、いちどは驚目をみはった万吉も鴻山も、弦之丞の言外にある心を汲んで、ひそかに思った。
お綱と弦之丞とは、さきに、剣山でとうていのがれ得ぬはずの危地を、龍耳老人のために救われている。それは、老人の思想と主家の将来を思うところによるとはいえ、救われた者には、大なる恩義であらねばならぬ。