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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
源内は、そこから戻っては、句会へ遅くなるし、急病ではないことと思って、明日なら宅におります、といって別れてしまった。
そのお米の姿を目に描いた。
非常に好い句想をとらえたように、かれは、にわかにまた筆と短冊を取りあげて、それへ、
癆咳の――
と五文字だけを書いてみたが、こう冠せてしまうと、どうも、陰惨な連想ばかりが湧いて、自分でも、俳味に遠い不快をおぼえたらしく、ベタベタと塗り消して、短冊を丸めてしまった。
そして、ただちに次の紙へ、
やがて死ぬ――
と書きなおして、下の句を考えていると、そこへ、筍飯にすまし汁をそえた、遅い夜食が運ばれてくる。癆咳の女の姿と、食慾をそそる筍飯の香りを、頭の中に錯綜させながら、源内はサラサラと後をつけた。
やがて死ぬ病美し衣がえ
これでいいと、ひとりで読みなおして、ひとりで悦に入っていた。
運座の帰りは遅いものときまっているが、その晩も例に洩れないで、源内や四、五人の俳友たちが、真言坂をだらだらと降りてきたのは、かなり夜更けであった。
源内と柳絮とは、荷亭の宅できって貰った芍薬の花をブラさげていた。
その中で、狂風という男は、蔵屋敷へ勤める遊蕩家で、これからまだ明るい街へ行って、たっぷりと夜を更かすつもりでいる。