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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
「死のうなんて、悪い覚悟でさ。わっしも一時は赫として、見つけ次第にと恨んでいたが、そう優しくいう者を、なぶり殺しにするようなことはしますめえ。自分が悪いと気がついたなら何よりの話、わっしの役目もすむわけですから、一緒に阿波へお帰んなさいな」
「いくら私があつかましくても、あんなわがままな真似をしておいて、今さらお前に……」
「なに、わっしはかまやしません。別だん、旦那の見ていたことじゃなし、どうにでも、この宅助が内密にしておきますから」
「ア、ありがとう……」と、身を起こしたが、袂は顔へ当てたままで、
「……宅助、ありがとうよ。怒りもせずに、お前が優しくいってくれればくれる程、わたしゃ、あの時のことがキリキリと胸を刺して」
「もうお互いに、そんなことは言いッこなしさね。お米さん、仲なおりに一杯やって、ひとつさばさばしようじゃございませんか」
宅助はまず九分までお米の悔悟を信じた。
手を鳴らして女に酒を頼んだ。心得ている出合茶屋なので、酒を運んでくると、川に向ったほうの簾をおろし、御用があったらお手を、といって仕切襖を閉めきって行く。
廂に赤々とした夕陽が照っている反対に、部屋の中は薄暗く感じられた。